視覚をフルに活かす


森博士の家 設計者:清家 清
(写真:『新建築』1951年9月号より)

この森博士の家は、障子を取り除くとほとんどワンルームの家となっている。さらに、写真のように壁の一部を可動させることができるようになっており、視線が通りやすい家でもある。聾者にとっては、視線の通る家は大事になってくる。

家の奥まで視線が通りやすいにも関わらず、写真を見てみると部屋がわかれていることがはっきりとわかる。これも、聾者にとっては大変重要なポイントではないかと思う。もしも、部屋がわかれているということがわからないような広く均質なワンルームであれば誰でも落ち着きにくくなる。視界からの情報に頼る聾者にはなおさらだ。だから、適度な広さの部屋にわけるということが、重要になってくる。

この森博士の家は聾者にも住みやすいだろう。

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南寺は直島にあります。
設計者はジェームズ・タレルと安藤忠雄です。

本当に何も見えない!動けない!それほど、内部は真っ暗だそうですね。
10分ほどじっとしていれば、ぼんやりとした光が見えてくるそうで。

僕はまだ行ったことがない。(※本記事を執筆後、行きました。)
聴者なら、おそらく耳に集中すると思う。
でも、僕は全く聞こえないのだから、この南寺に行けばどうなるのかさっぱりわからない。
一旦入ってしまえば、見えるようになるまでじっとしているしかないのだろうか?
それとも...?
この建築はぜひとも行ってみなきゃ、と思っている。

聾者全体に言えることではないが、光に敏感な聾者がいる。
僕もその1人だ。だから、寝るときは部屋を暗くしなきゃ眠れない。

どこかも知らないところ、特に公共空間が何も見えないほど真っ暗になってしまうと不安になるだろう。
しかし、自分の家の寝室は真っ暗な部屋(もちろん、ぼんやりとした光も必要)であって欲しいという聾者もいる。そうする必要がない聾者もいる。
いずれにせよ、こうした点も設計上の注意点だ。

ただ、南寺のような空間もあっていい。
非日常的な空間は人間には欠かせないと思うし、僕も行ってみたい。

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南寺に行ってきました!感想はですね…

暗闇自体は聾者は慣れてると思うし(暗い部屋で目をつぶれば、南寺と同じ暗闇になるから)、僕は暗闇に対して恐怖を持たなかった。

ただ、南寺では目を開けてるんですね。目を閉じて暗闇を見るのとでは全然違う。目を閉じてると自分の心に気持ちが向かっていく。でも、目を開けてると自分の外に気持ちが向かっていく。何があるんだろうっていう気持ちが出てくる。何かがあるとわかってたから。

ところで、歩いてると落し穴に落ちてしまい、そこは南寺のような暗闇だったという場面があったとする。このときは、僕はどうするかはわからない。南寺とは違い、何があるのかさえわからないのだから。何もないかも知れない。一生出られないかも知れない。聾者と暗闇には情報の有無が大きく関係してるのではないかと思います。

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ウィークエンドハウス 設計者:西沢立衛

最近よく耳にするようになったSANAAの西沢立衛。彼のウィークエンドハウスは、一見ワンルームのようでありながら、ガラスや反射する天井などが外部を写していることで、視覚的にも分節された空間ができる。

こんな話がある。聾者と聴者の2人組がある道を歩いているときに、聾者は聴者に「後ろに人がおるなぁ」と話した。友人は後ろを確認してみて、ビックリした。なぜなら、聾者は後ろを見てなかったはずなのに、言い当てたのだから。なぜわかったのかと言うと、反射するものに写っていたのを聾者は感知していたわけです。
ウソのような話だけど、それが当たり前のようにできる聾者はいる。聾者は空間全体を把握してるようでありながら、実は反射したものを見ることで把握しているというのも確かです。

反射を使うことでも聾者の住宅が多彩になることを、ウィークエンドハウスは教えてくれています。

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普通、お店や窓口などに行くとポスターやら広告からがたくさん張られている。
見る人がいるのはわかるけれども、聾者には「うるさい」という場合もある。
もちろん、音が聞こえるわけではなく、見ていて「うるさい」と感じる。
(音ではないことを示すために括弧でくくっていく。)
たぶん、聴者が聞きたくもない音をうるさいと感じるのと同じようなものだと思う。

写真のは、非常に「静か」な場所だ。
聴者に聞いた話では、聴者は非常に静かすぎる場所にいたら不安になるそう。
それと同じで、「静か」すぎる場所にいたら不安になることもある。

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Ennis-Brown House 設計者:Frank Lloyd Wright

聾者の住宅で、どうしても一室空間がいいというときに、空間の面白みを増やすものの1つとして「段差」がある。
これ1つをとっても、結構重要であったりする。なぜか。

聾者は視覚に頼るため、人の動きがどう視界に入るかを考えなきゃいけない。
あからさまに視界に入るのも不快であろうし、全く人気がないのも不快になることがある。

写真はリビングルームを通路から目線の高さで撮影したものだ。ということは、リビングルームと通路には段差が設けられているのがわかる。通路を歩いているときは、人の動きにそれほど敏感ではない。一方で、リビングルームは落ち着くところなので、人の動きによっては不快になりうる。この関係を考えてみると、通路からハッキリとリビングルームが見えながらも、リビングルームからは通路に立つ人がちらっとしか見えないため、お互いにちょうどいい感じに視界の中に人が入っている。
視界、行動と段差の関係がうまく扱われていますね。

程よい感じになるときの高さなどの数値的条件はどれだけかということだが、基本的には気配を感じる程度であれば十分であろう。

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画像:hhstyle.com

今回は、安藤忠雄設計のhhstyle.com/casaです。
これってホントに安藤忠雄?と思ってしまいました。

建物の外形が凸凹になっており、それがそのまま内部に出ています。で、材質に注目すると、それは光を反射するものですね。他の空間要素を取り上げると、スキップフロア、一体空間やトップライトがあります。これらが噛み合うことで、自然と聾者・難聴者にも合った建築になっていきます。

というのも、トップライトからの光が凸凹とした壁や天井に当っていき、その反射した光は別のあちこちの壁などに向かって反射していく。ここで、上層部での人の動きが光の動きを変化させることになり(わずかな影をつくる)、それを通じて、下層部にいる人は上層部が見えなくとも、あちこちに出てくるであろう反射の変化を感じ取る。つまり気配を感じ取れることになりますね。
もし内部仕上げにもう少し反射性があったら、なおさら気配を感じ取りやすくなっているでしょう。

さらに、スキップフロア・一体空間であることからも視線のつながりができていく。

気配を感じ取りやすく、視線もつながる。そういう聾者・難聴者にむけた空間構成がhhstyle.com/casaにありますね。

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竹の揺れを見てうとうとする。光の微妙な揺れを楽しむ。雨が降っているのを眺める。海の波の動きを目で追う。雲の動きをじーっと眺める。星がキラキラしているのを眺める。...

これらは、聾者としての僕の、自然の楽しみ方の一部です。
どれも「視覚」が関わっています。もちろん、海の匂いなどのように、他の感覚も関わっていますね。ないのは音だけです。

というのは前置きでして、本題に入ります。

多くある自然現象のうち、今回は雨について書きます。
雨というのは、雨量によって音も違うんだと思う。マンガでは、大雨では「ザーッ」という効果音が出ていますね。小雨では「ポトポト」でしょうか。住宅内にいることを前提として、聴者は、これらの音を聞いて初めて、降雨を認知するんだと思う。

一方、聾者は実際に外を見るまではわかりません。外を見るまではなかなか気付かないということは、例えば、洗濯物を外に干しているときなんかはショックを受けたりする。せっかく乾いてきたものが、降雨に気付かないことによって、また濡れてしまう。

そこで、嵌め殺しガラスを利用するなり空間構成を工夫するなりして、ガラスが濡れることで降雨をさりげなく認知するという方法があってもいい。それだけでなく、ガラスを流れる水模様を楽しむこともできる。さらに、雨上がりには、床面に照らされる光模様を見ることもできる。もちろん、環境デザイン(夏の日射など)や空間デザインなどを考慮しなきゃいけない。

自然とうまく付き合うというのは、聾者・難聴者にむけた住宅を考えるにあたっての大きな要素の1つになるかも知れません。

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今回注目したのは、「緑の植物」。
聾者は手話か読唇術を使う。どちらも目を酷使するものですね。そのせいか、僕の友人・知人(聞こえない人)で視力のいい人は1人もいないような気がします。現代人の視力が低下しているというのもあるでしょうが、手話や読唇術による目の酷使も大きく関係しているのではないかと僕は思っています。

例えば、リビングルームから多くの緑の植物を見ることができると、少しでも目に優しくなりますよね。会話していないときにぼーっと眺めるといい。しかも植物には揺れが伴うもので、その揺れを見ていても気持ちがいいし、視覚的にも楽しめる。

聾者・難聴者にむけた住宅を考えるときは、「目にも優しく」ということを強く意識していきたい。

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紙の資料館
設計:坂茂

写真は、やはり2階の通路が透けている「紙の資料館」。
この建築は、本当に感覚的に空間を把握しやすいものになってますね。通路が透けていたり反射性の高い空間で、誰がどこにいるのかある程度わかるものになっている。

聞こえない人は、一般的な住宅では2階の様子を感じ取りにくい。2階の動きをどのように感じ取れるようにしていけばいいのか。

その解答として、2階の光の変化を1階で感じ取れるようにしていくために反射材などを利用することもあるし、もちろん今回のように通路を透けさせるというのもいい。
また、ほとんど聞こえない人達だけで暮らす家であれば、通路だけでなく、2階の部屋の床を透けさせたり、半透明化させてしまうのもいい。(もちろん、原則としてプライベートルームは避ける。)ほとんど聞こえない人は、2階の音などは気にならないからだ。

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画像:デックファイブでのワイン検索
© Igarashi Taro
他の写真はこちら

デックファイブはワインバーです。今はもうありません。 新建築2002年9月に載っているのですが、発売当時にこれを見た僕はショックを受けました。

デックファイブには400本以上のワインがあったそうです。こんなにあったら、どれがいいのかわからなくなっちゃいますよね。そういうときは、普通店員に聞いたりするものだと思う。バーだったらなおさら聞きたくなる。 だけども、聞こえない人が店員に色々と聞くってことはほとんどない。本当は色々と聞きたいんだけど、自分で1つ1つ見てみようとか、一か八かで決めようとか、そういうパターンが多い。(今の僕にとっては、それも楽しみの1つ。)

デックファイブでは、IT技術を使うことによって、どのようなワインがあるのかがわかるようになっていました。しかも、内装デザインとITがうまく視覚的に融合していて、欲しいワインの位置も直感的にわかるようになっていた。実はこれがすごく重要なんですね。欲しいワインのところに行き、指を指すだけで「これが欲しい」と示すことができる。

ITの進歩は、聞こえない人にとって誰よりもとても大きなことだと思うんです。だからこそ、ITと内装デザインをうまく融合させていくということは大事ですね。それを最初に示してくれたのが、デックファイブだと僕はそう認識しています。

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先日に研究活動のために聾学校に行きました。
いきなりですが、クイズです。聾学校の掲示板ってどこにあるかわかりますか?

答えは、壁全体が掲示板なんです。廊下、階段、踊り場全ての壁にポスターなどが貼られています。隙間はないと言ってもいいほどです。これは聾学校独自のものだと言われています。ろう者は視覚に頼ることからも当然かなと。

なぜこの話をしたのかというと...
最近の学校建築は見た目にも力を入れているようですが、聾学校の場合は設計者の意図に反して、壁がオール掲示板化することもありえるわけです。そういうことを頭に入れて設計して欲しいんですよね。

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住宅を設計するにあたって、重要と考えているものの1つが「視線の交錯」です。目が合うかどうかということです。このことは、本ブログでも何度も書いてきました。このことを改めて書くのには理由があります。
「手話者は視線の交錯がなければ会話が困難になる」ということが実験により明らかになったからです。
また、これは読唇術を主に使う人にとっても同様であると考えられます。

このことは、住宅においてコミュニケーションを大切にしなければならないからには、壁、仕切りや家具の高さなどをていねいに検討する必要があるということになります。
また、視線さえ交錯していれば良いというわけではなく、角度なども重要な要素となりうることが明らかになっており、これも考慮しなければならないでしょう。

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手話を使う人、読唇術を使う人。どちらにも共通しているものがある。それは、会話時に必ず顔を合わせる必要があるということ。

とある日、僕が洗面所で顔を洗っているとき、背後から人がやってきた。その人は、僕に用事があって、僕に話しかけようとした。でも、僕は顔を洗っている最中で水がポタポタ...。振り向けない。そんなとき、目の前にある鏡を越して、自然と会話が始まったのです。鏡を使うことで、コミュニケーションを始めるというのもあるわけですね。

ちなみに、鏡を通じたコミュニケーションを行うとき、実は変な感じがするのです。鏡の向こうに別空間があって、その空間にいる人と話しているような感覚になるかも。ぜひ試してみてくださいね。

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当サイトでは、住宅などの内部空間で「光の反射」を使うことも考えていいと書いてきました。今回は、夜間の外部空間(庭やデッキなど)に注目してみます。

夜間に誰かが来るときのために、人感センサーライトを使う住宅があると思います。玄関を照らすパターンがほとんどだと思います。その玄関を照らす光は、玄関が見える部屋にも届きますね。普通は、それだけで終わりです。

でも、聾者の住宅ではもっと有効にセンサーライトを使ったほうがいい。聾者として、住宅のどこにいても外部の気配を感じ取れるようにしたい。こんなときに、大きく背の高い植栽があることが条件ですが、玄関だけでなく植栽にも光を当てるようにしてみてください。植栽に当たった光が反射し、住宅のあちこちに光を届けることができることがあります。もちろん、植栽の配置が悪ければ、意味はない。しかし、配置がよければ、外部の気配を夜間でも感じ取れるようになります。

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聴者同士の場合、聞こえていれば、住宅内のどこにいてもコミュニケーションができる。だけど、聾者の場合はそうはいかない。聾者は視覚に頼ることから、視線が通る空間をつくればいい。その1つの案として中庭を使うことが挙げられる。中庭を設け、中庭に面する部分にはガラスを使うことで、住宅のあちこちにいる人とのコミュニケーションができるようになりますね。また、住宅内のプライバシーを保護するときは薄めのカーテンなどを用いるようにしておきたい。そうしておくことで、人が見えなくとも、照明などによって「あの部屋に誰かがいる」とわかるから。なお、以上は住宅での話であるが、住宅外にも応用できる。

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