空間構成のいろいろ

元画像:アトリエ・ワン アニ・ハウス

今回注目したのは、キッチン。
建築雑誌に載っているような現代建築の図面を調べてみたところ、ほとんどはキッチンシステムが壁面を向いている。つまり、キッチンに立つと壁(あるいは窓を通じて外部)を向いている。数百の図面を調べたが、9割近くがそうなっていた。

このアニ・ハウスはキッチンが対面式となっている。聾者は背後の様子がわからないので、対面式が良いことは誰にでも想像はつくと思う。アニ・ハウスのキッチンは正確には全てが対面式となっていはいないが。対面式は、アニ・ハウスの他にも見られるものがあったが、調べた範囲ではアニ・ハウスが聾者に適していた。
アニ・ハウスは対面式だけでなく、人の気配を感じ取りやすいものとなっているという点が優れていた。2つの写真のうち、下のほうをチェックしてみて欲しい。これはキッチンから撮影されている。階段も見えるし(上部そのものは見えないが。)、子供がいるなら子供の様子もちゃんと見ることができるし、外部や玄関も見える。必ずしも外部や玄関から丸見えであればいいというわけではないが、聾者とキッチンのあり方においては大きなヒントになっている。

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画像:アトリエ・ワン ガエ・ハウス

僕が色んな図面を見て「コレは!」と思ったものは、偶然にもアトリエ・ワンによる設計だというケースが多い。この事実にビックリしてアトリエ・ワンが設計したもの全てをチェックしてみた。
結論を言うと、アトリエ・ワンは聾者の視点からも勉強になるものを設計している。

さて、本題に入るとして...、「狭くて小さいたのしい家」という、ガエ・ハウスができるまでが書かれている本によれば、森博士の家を縦にしたものをイメージしたと書かれていた。縦のつながりが意識されているという点が、聾者の視点からも良い。

それよりも、僕が「コレは!」と思った部分は庇の窓。庇に窓があることに気付くまでは、僕は下記のように思っていた。
リビング&ダイニングを2階に持っていき、かつ2階の窓がこれだけじゃ、聾者と外部とのつながりが途絶えてしまう。縦方向のつながりはいいのになぁ...と。

ところが、庇に窓があることに気付いた途端、「コレは!」って思った。
光が地面で反射して、庇の窓を通じて内部に入る。このとき、その光が天井に映るということは、影の動きが天井に映るということも言える。
これが聾者には結構役に立ったりするし、面白いと思った。

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壁は、重要な要素の1つだろう。聾者の住宅は「一室空間」がいいのではないかという考えが巷にはある。僕は、それを否定したい。

視覚に頼る聾者にとって、壁は邪魔なのかも知れない。しかし、それは一般的な壁のことにすぎない。浮いてるような壁、ぶら下がった壁などを使うという手がある。必ずしも全てが見えていれば良いというわけではなく、気配が感じられれば良い。

こういったことから、壁を使うことに可能性はある。あとは壁の必要性を、普通の設計などと同じように考えていけばいい。

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難波和彦+界工作舎の箱の家シリーズは、現時点で108まであるようだ。箱の家といえば、一室空間、高性能、コストパフォーマンスや立体最小限住居などで知られる。今回は、「空間構成の標準化」に注目した。箱の家では「空間構成の標準化」が追求されているゆえ、生活にこだわりを持つ人には不向きな家だそうだ。「空間構成の標準化」というのは、大雑把に言えば、どの家も同じようなものだと思っていい。(ただし、ハウスメーカーの住宅などとは違う。)

聾者にむけた住宅についても、ある程度「空間構成の標準化」が容易だと考える。例えば、車椅子利用者には、機敏に動ける人もいるし、モーターで動かす人もいるし、押してもらう人もいる。だから、車椅子利用者にむけた住宅は、人それぞれに合わせるのが一番だろう。
聾者の場合は、生活においては情報をどう獲得するかが大きな問題となる。肉体的には重複障害を除けば、一般と変わりない。情報を獲得する方法はある程度絞れてくる。従って、障害者という枠の中でも、聾者にむけた住宅については「空間構成の標準化」が容易となる。クライアント1人1人に合わせるか標準化か、どちらを選ぶかはクライアントや設計者の考え・思想次第だろう。

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今回はバラガン邸からヒントを得た。
設計者は、Luis Barraganで、公式サイトはhttp://www.barragan-foundation.com/

バラガン邸の書斎は道路に面している。しかも高窓ということから、外に対して「閉じて」いることになってる。
一方、リビングルームは庭に面し、全面窓であることから、「開いて」いる。
バラガン邸の庭は塀に囲まれている。
つまり、バラガン邸は外の人気を感じさせない。
バラガン邸では、1人で長い間ぼーっとできるそうだ。

今まで、聾者の住宅には外部とのつながりが必要だと話してきた。
だからバラガン邸は聾者に不向きなのか、というとそうでもない。

むしろ、外部とのつながりを遮断するという発想もあるということを、今回バラガン邸を見直したときに気付いた。
「外部に注意を向ける必要がない空間。」
それは聾者にとって安心できる空間の1つであるような気がする。

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聴者の世界では、ドアをノックしたとき、その部屋の中から応答があってからドアを開けるのが普通だと思う。聾者である僕がドアをノックした場合、応答が聞こえないのだから、一か八かで開けていくことが多い。いつもドキドキして開けてます。

聾者の生活ではどうしているのかというと、多くはドアを開けておくという方法が使われている。ドアが開いているときは「どうぞ、入ってください」という意味を持ち、ドアが閉じているときは「入らないでください」という意味を持つ。つまり、ドアが開いているときはパブリックゾーンのような、閉じているときはプライベートゾーンのようなものになるわけで、ドアの開閉1つで空間の性質が全く違ってくる。

だから、設計において、ドアの位置・設置の有無は注意深く考えておかなきゃいけないだろう。

※発声できる聾者の場合、ドアの向こうにいる人の名前を声で呼び、出てくるまで待つということもある。聴者と発声できる聾者が一緒に住んでいる場合に多いと思われる。

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今はともかく、昔の小学校の廊下の曲がり角は四角になっているのが普通です。曲がり角の向こうは見えませんし、音もわからない。僕はその曲がり角で人とぶつかって、ケガをしたことがあります。聴者なら回避できたかも知れません。
曲がり角が大きな曲線になっていれば、曲がりながらも向こうがハッキリと見えるわけだから、ぶつかる心配はない。

それから、手話を使う人も使わない人も聞こえない人は基本的に円陣でコミュニケーションを取ります。円形の部屋があれば、聾者たちは背もたれしなから、円になって会話ができるかも知れない。矩形の部屋であれば、円形のソファなどを使ったり、椅子の配置を円形にしてみたりするのもいい。

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先日、研究の資料集めのために、ある大学の図書館に向かう必要があった。
そこで、その大学のホームページをチェックしてみたところ、「ユニバーサルデザインが施されている」とあった。
しかも、その大学には「聴こえ」を取り扱う学科がある。
こうなったら、期待するんですよね。

で、行ってみたら…

確かに空間構造的には、ある程度聞こえない人にも配慮されたものになっていました。
ただし、空間構造だけの話です。
図書館に入ると、学外者はインターフォンでスタッフを呼ばなければならない。
インターフォンで会話できない人も多いということを、見逃してしまっています。
当然、僕はスタッフと目が合うのを待ってました。

建築でいうユニバーサルデザインは、空間構造だけではないはずです。
電話機1つを置かれてしまうだけで全然違ってくるということを知ってもらいたいと思います。

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この頃、とても寒いですね。
ニュースによれば「日本列島が冷凍庫の中に入っている状態」なんだそうです。

こんなときは、本当に手が冷えていて、指を動かしにくいものです。
今回は、これがネタです。

指を動かしにくいってことは、筆記も手話も難しくなってしまいます。
声だったら寒さに関係なく発することはできるけど、手はなかなかそうはいかないこともあるわけですね。
そういうことを考えてみれば、防寒は大事です。

もちろん、普通に防寒すればいい。

ただ、僕が昔住んでいた家は築80年以上らしく、防寒がしっかりとしていませんでした。
昔の人はようこんな寒いところに住んでいたものだなぁと感じるほどです。
こういうことがあって、「手話などでコミュニケーションを取るなら防寒は大事だ」と強く実感しています。

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公共の場、例えば役所にカウンターがありますね。
このカウンターの目的は、机上での事務を可能にすることや空間を切り分ける役割を持たせることなどが挙げられます。
カウンター自体は高くはないので、カウンターの向こうにいる人は見えます。
ですが、カウンターの向こうにいる人は自分の仕事に集中していたり、机の向きなどにより、こちらに気付いてくれないことがあります。

このとき聴者は、声を掛けるものだと思います。
聾者はどうでしょうか。うまく話せない人もいれば、音量の調整ができない人もいます。
音量を適当に変えたりしてみて、やっとこちらに気付いてくれることがあります。
でも、本当は聾者にとっては声を出さなくとも気付いて欲しいのが大半でしょう。

カウンターにベルを置けばあっさりと済むでしょうけども、今度は聞こえない人々が職員として作業している場などでのカウンターのあり方などが問題になってきます。

聾者は視覚に頼ります。同時に、聾者自身が動くことによって相手に自分を認知させることも当たり前のように行っています。
聾者にとって最適な空間とは見渡しが良いものだけでなく、相手との接続(コミュニケーションを始めること)ができる空間であることも大事です。
これを考慮して、カウンターや事務机の配置などを考えていきたいものです。

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「階段のデザインは、その建築の素晴らしさを左右している」と言われることがあります。
例えば、階段を上がるにつれて、外の景観が目の前に広がるのと、壁で覆われているのとでは印象が全然違いますよね。

以前、BOBO家という、聞こえない人の住宅を見学させて頂いたのですが、そこには工夫された階段がありました。そこで知らされたことですが、階段のデザインも聞こえない人にむけた住宅では結構重要になりえます。

例えば、
1)階段を上がると目の前に人がいる
2)階段を上がっても、方向を変えない限り、人と目が合わない
のうちどちらが良いかというと、聞こえない人は1)を好むことが多いはずです。

視線の交錯、外部とのつながり(景観、光など)などあらゆる面をまとめるというのは、かなりのセンスがいるかも知れませんけども、そういう空間を持った階段があったらいいですね。

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